大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山家庭裁判所宇和島支部 昭和40年(家)7号 審判

申立人 田中ミツコ(仮名)

相手方 倉田明男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し昭和四二年一月より昭和四六年一二月まで毎月末日限り金一万円宛を支払え。

申立費用は各自の負担とする。

理由

第一事実関係

宇和島市長作成の倉田明男、及び田中ミツコの各戸籍謄本、登記官吏作成の登記簿謄本三通、宇和島社会保険病院医師三好竜児作成の診断書、松山地方裁判所宇和島支部書記官作成の調停調書謄本、宇和島市長中川千代治作成の調査嘱託についての回答書、家庭裁判所調査官の調査の結果、申立人及び相手方の各審問の結果を綜合すると次の事実が認められる。

(一)  婚姻、離婚の経過

(1)  申立人は、昭和三年一二月四日田中吉松、同サダの三女として出生、福岡県○○郡○○高女二年を中退し、昭和一九年一一月父と共に宇和島市に移り、同年一二月より同市農業協同組合に事務員として就職していたものであり、相手方は私立○○高商を卒業後、宇和島市○○通一三番地の一〇において、家業である種苗商を営んでいたものであるが、昭和二三年四月頃、相手方の友人の父親の世話で申立人及び相手方は見合いをし同年一一月頃まで交際を続けた上、一一月三日挙式の上事実上の婚姻をし結婚生活に入つた。そして昭和二七年四月二二日長男良男が出生したので、同年五月二〇日婚姻の届出をした。次で同三〇年八月九日二男俊男が出生した。

(2)  申立人は、昭和三一年頃肺浸潤に罹り、同年三月三日宇和島社会保険病院に入院し、四五日間病院生活を送つたが、家事や子供のことも気にかかつたし、相手方の要求もあつたので二週間に一度位宛相手方の許に帰つていた。退院後自宅において療養することになつたが、家事や商売に追われて充分の療養ができなかつたため、昭和三六年九月大喀血をして同月九日再び前記病院に入院した。そして小康を得てからは前回と同様相手方の要求により時々自宅に帰つていたが、同三九年一〇月頃、離婚を決意するに及び爾来自宅には帰らず夫婦としての交渉はなくなつた。

一方相手方は、申立人が長男を出産した当時から市内築地の料亭の女と親しく交際をしたこともあり、昭和三二年三月頃にはバーの女給下山エリ子と関係を持つようになりしばらくその関係を続けていた。申立人が二度目に入院した頃には右の下山エリ子とは手を切り、石川幸子と関係するようになり、昭和三九年初頃より遂に自宅に引入れて家事の手伝などもさせるようになつた。

(3)  申立人は性格極めて感情的でしつと心も強く、また同居していた相手方の姉倉田文子と折合いが悪かつたなどの原因もあつたが、主として、申立人の病気入院中に相手方が次々と女をつくり、遂には家庭にまでこれを引入れるようになり、病気療養中の申立人を顧みなくなつたため、夫婦仲は破綻するにいたり、昭和三九年一〇月頃、遂に申立人は離婚を決意し、相手方に離婚ならびに財産分与の申入れをしたが、相手方は財産分与には応じなかつたが、離婚には同意したので同年一二月二六日協議離婚の届出をした。

(二)  双方の資産収入、及び家庭状況

申立人は引続き宇和島社会保険病院に入院加療中であり、入院費は、国民健康保険、及び結核予防法により支給されているので申立人の負担額はない。しかし申立人には現金収入はなく、また不動産は勿論他にも特筆すべき財産は有していない。

相手方は、前記石川幸子と内縁の夫婦として同棲し、申立人と相手方との間に出生した長男良男(一三歳=中学一年生)二男俊男(一〇歳=小学四年生)を養育している。相手方は引続き種苗商を営んでいるが別表のとおり収入は借入金の返済に充てられ、現在は親子四人の生活費を捻出するのが精一杯の状態である。

なお、相手方の資産、収入の状態は別表のとおりである。

(三)  当事者の婚姻中に取得した財産

相手方が所有する不動産は、いづれも相手方が亡父から相続したものであり、婚姻継続中に取得した不動産はない。申立人らが婚姻した当初は商売も順調であり、申立人が入院するようになつた昭和三六年頃までは三万円ないし四万円の生活費を控除してもなお若干貯金もできる程度の収益をあげていた。しかしながら申立人が入院するようになつてからは、相手方は女遊びをするようになり、従つて出資はかさむし、商売は疎かになり、赤字続きとなつて別表のとおり相当多額の借財をするにいたつた。

第二財産分与

上記認定のように、申立人と相手方が婚姻継続中に取得した財産は殆どないけれども、申立人は相手方と結婚して以来十有余年の間、相手方と協力して種苗商の営業を続けてきたため、相手方はその父祖伝来の不動産を維持してこられたものと認められるから、申立人が相手方の財産の減少防止に協力した点において、その財産について持分的権利を有するものと認められること、本件離婚の原因は、さきに認定したように主として相手方の不貞行為に基因するものであること、申立人は相手方との婚姻継続中に肺結核を罹患し、目下入院加療中の身であるから将来の生計に窮するものと認められること等の事情を勘考すると、相手方は申立人に対し財産分与として金六〇万円を分与するのが相当である。

而して相手方は、さきに認定したように、まとまつた現金を有していないから一時に多額の金員の支払いを命ずることは妥当でないし、その所有の不動産も、これを担保に供し殆ど価格に近い金員を借入れているので現物を以て分与を命ずることも適当ではない。従つて相当長期に亘つての分割払いを命ずるのほかはない。ところで、相手方は申立人の実父に対し、松山地方裁判所宇和島支部の調停において成立した調停条項に基き昭和四一年一二月まで(昭和四〇年六月より一九ヵ月間)毎月一万円宛を支払うべき債務を現に履行しつつあるのであるから、更らにこの上申立人に対し支払いを命ずることは、相手方には他にも未払債務が相当あること、相手方が申立人との間に出生した前記中学一年生と小学四年生の男児を養育していること等を考え併せると酷に失するといわなくてはならない。相手方が申立人の実父に対し支払いを完了する予定の日時まで、猶予して、昭和四二年一月より完済にいたるまで毎月末日限り金一万円宛を支払わしめるが相当であると考える。(勿論他に収入のない病身の申立人が、その間困窮するであろうことは想像に難くないけれども、相手方が申立人の実父に支払うべき前記債務は、申立人らが離婚していなかつたとしたら、裁判所の調停にまで持込んで早急に取立てなくてはならない性質の金ではないと考えられるので、申立人は、実父が相手方から支払いを受くべき金員を、一時立替えて貰うこともできるのではなかろうか。)よつて、申立費用の負担につき非訟事件手続法第二七条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 乗金精七)

別表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例